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田原へ着いた先生は、池の原にお邸を賜わり、 年老いた母を中心にわびしい生活を始めました。 しかしここも安住の地ではありませんでした。 お母様へ孝養をつくし生活費を得るためにと思って、弟子の半香(はんこう)が 江戸で売った絵のことからお殿様へ迷惑がかかりそうだとの世間のうわさは、 遂に忠義一徹の先生に自殺を決意させました。 この年の正月には妹のおもとさんへ孝行くらべをしようと書き送った程でしたが、 それさえ今はできず、 不忠不孝の人として死なねばならぬ先生の心中はどんなに悲痛なものだったでしょう。 |